飲食関連業種では、高い求人倍率を背景にロボ導入がすすんでいるようだということを先回書きました。
その具体例が記事になっていました。
新聞の読み方はそれぞれ自由です。
漫然と紙面を広げて拾い読みすることによって、優雅な気持ちになったり、気付かなかったことに興味をもちはじめたり、ぼうっとした自分のための時間を通勤電車の中で過ごす読み方というのはとてもいいと思います。
それとは別に、わたしのように目印をつけてテーマを決めて記事を探していると、次々と自宅に届く新聞記事は、まるで紙芝居のように感じることがあります。
これはこれで小気味がいいというか、新聞を楽しむ、ひとつの方法だと思います。
このたびご紹介する記事には、中小企業が開発した食品機械が市井の飲食店や弁当屋さんで活躍していることについて書いてあります。
わたしにとっては「ロボテーマ」のアンサー記事のようなものです。
記事になっているのは、三社の中小企業が開発したマシンです。
① 小型の串刺し機 コジマ技研工業(相模原市)
② ご飯盛り付け機 八木厨房機器製作所(京都市)
③ ケーキカッター 精電舎電子工業(東京荒川)
「小型の串刺し機」は、これは文字通り焼き鳥などの串うち作業を自動化する機械です。
すこし古い小説ですが「居酒屋兆治」山口瞳を読むと、串うちがまあまあ実にしんどい作業であることがわかります。たしか亡くなった高倉健さん主演で映画にもなっていました。もうだれも知らないかもしれませんが…
すこし引用してみましょうか…
「兆治は、Tシャツでズボンをはき、前掛けをしめて、うしろむきでモツを切っていた。腕のあたりに総毛立つような感じがあるのだが、頸筋の汗は引かない。
四年前に、この店をはじめたころは、レバーが苦手だった。ぬるぬるしていて掴みどころがない。しかし、もう、それには馴れた。やはり、ナンコツが大仕事になる。骨すき包丁で、ぶった切るようにしてから錐で穴をあけ、串を通すのであるが、ときどき、自分で自分の指を刺してしまう。一昨日も、それをやってしまって、兆治は、左手の薬指に指サックをはめている。
モツ屋が材料を持ってくるのが三時前後であって、兆治は、二時半に自転車に乗って家をでることにしている。夏場は、朝のうちに一度店へ出て煮込みに火を通す。モツを切り、串に刺すという仕事を完全にやりとげるのに三時間半を要する。だから、その仕事が終わるのは六時半になるのであるが、どうかすると、五時に客が来てしまうことがある。また、五時になると縄暖簾をさげ、赤提灯に灯をいれることにしている。そういうことだから、五時以降は、注文のあいまあいまを見計らって、客に背を向けて、モツを切るようになる。」居酒屋長治 著者:山口瞳(新潮社 昭和五十七年八月十五日 三版 霧しぐれ P7P8)
作家先生の文章はシビレますね…
居酒屋の仕込みが本当によくとらえられていると思います。
もう三十五年も前の文章ですが、基本的なところはいまも変わらないような気がします。
「串刺しは1人で何時間もかけてようやく100本~150本しかできなかった。今では1時間で150~200本を仕込む。」H29.8.28月 日経新聞
「何時間」を仮に兆治が小説より30分ほど短い3時間で手早く終了したと仮定しても、マシン導入の作業効率は約4倍になっているということになります。
居酒屋兆治では… 3時間で…
100本~150本
串刺マシンでは… 3時間で…
450本~600本(4.5倍~4倍)
「マシンを入れて4倍か… マシンを買うお金もないけど、やっぱり従来通り手刺しでやります…」
そういう意見もあると思います。
なぜかと言うと、実は串刺しというのは、単純にまっすぐ刺すだけでは、ダメだからです!
簡単に抜けてしまいます…
焼き鳥が出てきて、スポスポ抜ける…抜け落ちるというのは、すこしいかがなものかという気持ちになります。
漫画「おそ松くん」に登場するチビ太が持っているのは、おでんですが、焼き鳥はチビ太のような持ち方でいただきたいものです… チビ太のおでんが、スポスポ抜けるようでは、
「てやんでぇ バーロー ちくしょーっ!」
チビ太にそう言って、お叱りをうけてしまうかもしれません…
また抜けやすければ、焼いている途中での商品ロスにもつながると思われます。
簡単そうに見える串うちにも技術が必要なのです…
(余談ですが「おそ松さん」ではチビ太は、おとなになっているらしいですねw)
「具材が少し波打つように刺しているため串から具材が抜けず、バイトでも品質が安定する。」H29.8.28月 日経新聞
おおっ!ですよね。
居酒屋兆治の英治(故高倉健)が熟練の串うちをしなくても、仕込みはバイト任せにできる!ということです!つまり…串打ちは学生バイトにまかせて、元恋人のさよ(故大原麗子)を駅前まで探しに行けるということです…
先般ご紹介した「銀だこ」さんと同様、技術の伝承に時間を掛けなくてよい!というのは、もはや仕事のステージが違うということです!
この観点で、次回では、あと2社のマシンを見ていきたいと思います。
(つづく)
今日の記事ネタまとめ
①「中小の食品機械が救う 街の飲食店の人手不足(コジマ技研 具材の串刺し10秒で5本
八木厨房機器 ご飯の手盛り感を再現)」H29.8.28月 日経新聞