先回は、生産性向上の具体例は、ロボット投資とIT技術であり、この導入によりリーマンショック時以上の失業者増加が予想されている…という記事を紹介しました。
この予想あながち馬鹿にはできないと思います。
わたしは勤め人のとき、広報部門で販売促進計画の立案実行を担当していたことがあります。人事部勤務になる前の11年間のことです。販売促進計画の実行には、広報販促物として多数の印刷物を作成する必要がありました。印刷物を印刷会社まかせにすることもできるのですが、それでは思い通りの印刷物を仕上げることはできません。
広報部門の担当者になったならば、印刷技術について、いちから学ぶ必要があるのですが、経験のないものを、本で読んでもよくわかりません。そこでわたしは、用事をつくって、印刷会社の「現場」に行って、そこにいる職人さんたちに技術的なことについて教えてもらいました。
当時は90年代でしたので、印刷のデジタル化はまだはじまったばかりで、印刷のもとになる「フィルム」とよばれる透明なシートの作成や調整は、職人技術の独壇場でした。
一応電算機でオフセットの世界でした。
電算という言葉がすでにすごいですよね。時代を感じます。
オフセットは今も普通にありますね。
色の濃淡は、網点シートという実に小さな黒い水玉模様のシートを、手作業で張り付けていくのですが、カラー印刷の場合には4枚の透明なシートが必要であり、それぞれのシートに張り付ける網点シートの網点の方向角度が決まっており…
よく切れる専用のカッターナイフを駆使して、作業する職人さんは、実にかっこよく、頼りになる存在でした。
それらの職人さんから、たくさんの技術を教えてもらいました。
ところが…それからたったの数年で、印刷の世界はDTPつまり完全にデジタル化されてしまいました。
たかだか数十万円のマッキントッシュと専用のポストスクリプトプリンターがあれば、カッターナイフで切り出す必要もなく、網点角度を職人技で合わせて張り付ける必要もなく、画面にでてきたボタンをぽちりとおすだけで、4枚のフィルムが生成されることになりました。
わたしに網点技術を教えてくれた職人のおじさんは、職場がデジタル化された後は、いったいどうなってしまったのでしょうか…
すこし昔話がながくなりましたが、この90年代に起きた印刷デジタル化とよく似たことが、日本全国で全産業的に起きようとしているということだと思います。
職人のおじさんは、新しい技術、当時ではマックの操作方法を新たに学ばなければ、職を失う憂き目にあうということなのでしょうか?
記事にはこうあります。
「AIなどで効率化に成功した企業は社員に一段と高い水準の能力を求める。失業者が増える一方、企業の人手不足感も和らがない」
このように論説することはとても簡単ですが、先の職人のおじさんにマックの操作方法を一から学べ!というのは、とても酷なことで、現実にはほぼ無理だと思います。
そんなことができるわけがありません!
そのジレンマにぶち当たった会社は、元職人のおじさんの処遇に困り…閑職に追いやって、それっきり…
おじさんは、定年を待つだけになってしまったのでしょうか?
おじさんの給料は、会社の固定費です。
このようなことをしていると、会社の限界利益をあげる必要があります。
おじさんを定年まで雇うため!に、経営効率をあげて限界利益を向上させて、利益を確保するって、なにか釈然としません… それでもいいような気もしないでもないのですが、なにかがおかしいような気持ちがします…
例えば、元職人のおじさんを印刷技術の教育係に仕立て上げ、新入社員やわたしのような顧客の教育をするぐらいの道筋は、会社がつけるべきだと、わたしは思います。
当時わたしに現場でいきいきと教えてくれるかどうかは、わかりませんが、印刷がデジタル化されたとしても、印刷機にかけて、紙に印刷することには変わりはないわけであり、おじさんの技術を生かす手立てはあると思います。
このように会社の技術や人材を複合的にとらえ、会社の財務状況や限界利益の動きを巧みにとらえて、提案をしていくことが、これからの会社には必要になります。
そして、そのような「サエタ」人材も必要になるのだと思います。
たいへんな時代になるのかもしれません。
人材はたやすく成長しません。時間をかけて育成する必要があります。
頑張りましょう!といわれても困りますが、前へすすむしかありません…
今日の記事ネタまとめ
①「202X年、人余り再び?(AI導入で省力化すすむ)」H29.8.26土 日経新聞