[170] 給料「前借り」急拡大 一部は「脱法」貸金?ルール必要(日経新聞)

給料日前に、働いた分の給料を受け取れるサービスを提供する業者が急増している。」H29.10.25水 日経新聞


なぜこうした需要が拡大したのか。労働相談などのNPO法人を運営する今野晴貴氏は「毎日現金を得ないと生活できない非正規労働者らが増えた」と背景を指摘する。」同記事

さらにその背景には…

消費者金融などの規制強化と表裏の面もある。日銀や金融庁などの統計では、07年に15兆円超だった消費者金融と銀行カードローンの貸付残高合計は直近までに6兆円以上減。そこを埋めるように新サービスが伸びた。」同記事


この前給の制度が伸びていく動機や環境は十分にそろっていたというわけです。

たしかに便利な前給の制度ですが、先回は出資法上の問題があるかもしれない、10日間で手数料6%を従業員から徴収することは、年利219%の利息を徴収しているようにも見える。貸金の上限金利は20%なので199%分(219%-20%)が出資法違反になるかもしれない…という記事をご紹介しました。

この他にも労働基準法24条1項前段には、お給料は直接労働者に支払いなさい!という規定があります。

前給サービスを業者が仲介するとすれば、順序はともかくお給料マネーは「会社」⇒「業者」⇒「労働者」という経路をたどるわけですから、お給料は会社から直接労働者に支払われているようには見えません。

民法474条で言うところの「第三者の弁済」に近いように思います。

たしかに民法474条(第三者の弁済)には「債務の弁済は、第三者もすることができる。」と書いてありますが、そのあとに「ただし、その債務の性質がこれを許さないとき…この限りではない。」とされています。

労基法24条の「直接払いの原則」は民法474条但し書の「その債務の性質がこれを許さないとき」に該当するような気がしないでもありません。民法に詳しい人にお尋ねしてみたいところです。

この労基法24条の話を抜きにして、これは貸金である(ああ貸金さ!認めますよ!)ということだとしても、仲介する業者は貸金業者である必要があり、具体的には貸金業者は登録をする必要があるのが法律の定めです。


給与前払いサービス「キュリカ」を展開する人材派遣のヒューマントラスト(東京・千代田)は資金移動業の登録を取得した。」H30.9.5水 日経7面 金融経済


すべての業者が登録を済ませていればいいのですが、現実はどうなのでしょうか。

厚労省は「立替払いは原則違法。導入企業が処罰対象になりうる」という。」H29.10.25水 日経

これは行政的な処罰の対象のことを言っていますが、立替払いは賃金ではない‼という見方もあるそうです。

労基法24条は「賃金は…直接労働者に…支払わなければならない。」としています。

この待遇は「直接労働者に支払わないのであれば、賃金でない。」です。

高校1年の数学で「命題が真ならば、対偶は真である」と習ったはずですので、労基法24条が命題でその対偶「直接労働者に支払わないのであれば、賃金でない。」は真だということになります。

前給は立替払いをしていますので、それは賃金ではない‼ということになれば、いくら業者から立替払いでマネーを受け取ったとしても「まだ賃金をもらってないよ!」「未払い賃金よこせ!」と二重請求されるかもしれません。

「そんな、アホなことあるかい‼」

そう言いたいところですが、日本法令から出版されている月刊誌「ビジネスガイド 2018.4」で高倉光俊弁護士(南埼玉法律事務所)は次のように述べています。

労働者は、給与の一部ないし全部が未払いという状況になるのですから、企業に対し、自身の給与のうち、業者に対して支払った分を自身に支払うよう求めることができるのです。」ビジネスガイド 2018.4 P52

「未払い」というのは、さきほどの労基法24条の対偶が真であることをテコに、お金はもらったけど「賃金」というマネーはもらっていません‼と言う意味の「未払い」です。

したがって、企業としては、前払い分の給与について、業者への支払いと労働者への支払いという、二重払いを強いられるリスクがあるのです。」同ビジネスガイド

そんな、アホな!ことがありそうに読めます。

なお、業者から前払給与相当分を受け取っている労働者が、企業から全額の給与を受領した場合、前払い給与相当分については業者に返還しなければならないのか、企業がに二重払いをした場合、業者に対して支払った前払給与分の金銭について不当利得として返還を求めることができるかなど、この問題には付随する様々な法律上の問題点が生じます。」同ビジネスガイド

これらの結論は、給与前払いサービスの契約内容によって異なるので、共通した解答はないように思います。」同ビジネスガイド

この課題はどうやらまだまだ研究の余地がありそうです。


2018年09月13日