[161] 給与 デジタル払い可能? ②(日経新聞)

お給料の「銀行振込」は本来できない!(労基法24条 賃金払い5原則)
でも!本人が「いいよ!」と同意してくれれば「例外」的にお給料を「銀行振込」してもいいよ‼

このような建付けになっているということを先回解説しました。

急速に普及し始めた「デジタルマネー」で給与を受け取れるようになれば、銀行からお金を引き出す必要はない。」H30.8.3金 日経7面(金融経済)


デジタルマネーとは「実際の貨幣を使わず、電子情報のみで代金を支払うことができる仮想貨幣。」同記事

デジタルマネーの一例としては、Suicaなどの鉄道系のものが身近だと思います。わたしは愛知県在住ですのでTOICAを愛用しています。このカード当初は東海エリアなら東海エリアだけの鉄道の乗車料金の支払いでしか使えなかったのですが、そのうち首都圏でも関西圏でも札幌でも博多でも使えるようになりました。しかも乗車料金だけではなく、駅売店でのお買い物に使えるようになり、自販機でも使えるようになり、いまや駅以外のコンビニなどでも利用できるようになりました。

小銭が増えず手軽なのでとても重宝していますが、どのように上手にお買い物をしてもわずかに残る十数円がどうしても使いきれず悔しい思いをしています。

この残金…大変巧みな仕組みだと思います。

仮に一人平均1,000円程度のチャージをしていると仮定すると、100人で10万円、1万人で1,000万円、100万人で10億円のマネーがプールされているということになります。しかも!利息なしで借り入れたようなものです!とくに返済期限が決まっているわけでもありません!

このようなことを許して?いるのは「いつでも利用できる」「鉄道会社が倒産する(=チャージがなくなる)ことはないだろう」という信用に基づいているということです。

ウラを返せば、鉄道会社は信用に基づいて10億円のマネーを預かっている!ということです。

2015年、あるベンチャー企業が規制緩和を要望したところ、厚労省は「破綻時に資金が全額保全されないケースもある」と一蹴した。」H30.8.3金 日経7面(金融経済)


規制緩和とは、もちろん給与のデジタルマネー払いということですが「一蹴」されたのは「あるベンチャー企業」だからではないはずです。なぜなら「破綻時に資金が全額保全されないケースもある」のは鉄道会社であっても同じだ!からです。破綻時適用されるペイオフは金融機関を対象にしたもので「鉄道会社」はもとより「あるベンチャー企業」を対象にしたものではないからです。


規制緩和に慎重な厚労省は労働者保護が第一だ。規制緩和で現金以外の給与支払いを幅広く認めた場合、ブラック企業が価値の怪しい独自の仮想通貨で従業員に給与を支払うなど悪用される恐れもある。」同記事


社長「今月より一般職は“ブラック1単位”、係長は“ブラック2単位”、課長は“ブラック3単位”、部長は“ブラック5単位”を銀行振込のかわりに支払うこととする! ブラック1単位は、10万円相当だ!」


こんなことが起きるかも⁇ ということでしょうか。
「相当」と言うところがなんともあやしいですね。


社長 「ブラックの管理はこのパソコンのエクセルで管理する!」
従業員「ええ?エクセルですかぁ?大丈夫ですか?」
社長 「給与計算はこちらの社労士先生に依頼している!なんか文句あるか?」


こんな仕事は絶対に!引き受けたくありません!
社労士報酬も“ブラック通貨”で支払われるかもしれませんからね!

とはいえこのような議論が持ち上がるにはそれなりの理由があります。

今年3月、東京都が特区の会議に提案したのが議論の始まりだ。…最近急増する外国人労働者への対応がきっかけだ。日本で外国人が銀行口座を開くには、日本に住所があり、期間が1年以上の在留カードなどが必要。」同記事

外国人を雇っているある社長さんからは、毎月のお給料は現金で支払っていると聞いたことがあります。なぜなら外国人の多くは銀行口座を持っていないからです!そして銀行振込よりも現金(げんなま)の方が外国人のみなさんの信用度が高いそうです。「強制通用力」の信頼度半端ない!ということです。

社長さんは現金をいちいち数えて袋に入れて… 手提げ紙袋に入れて事業所まで運んでいるのだそうです。お札を数えるときには、指サックよりも輪ゴムを指に巻き付ける方が手軽で都合がよいそうです。


まさに昭和の時代に先祖がえりをするような話です。

仮にお給料袋の金額が間違っていたとしたら…
クレームが入るのは少なかった時で、多めに間違えた時はノークレーム!だそうです…

まあ当然と言えば当然ですが、少なく間違えればやり直しですし、多めに間違えれば損失という面倒でコストフルな事務間違いリスクを背負い込んでまで現金支払いに先祖返りしなければならないのは、外国人を雇わざるを得ないという背景のせいであり、人手不足が招いた姿だということです。

人手不足で外国人労働者が増え、厚労省によると、2017年10月時点で127万人に上り、1年前から18%も増えた。「給与振込口座を開けないといった相談が寄せられる」(東京都の担当者)

現金払いが前提であれば、このように給与計算支払いの事務コストが上昇することになります。

そこで前提である「現金払い(通貨払い)」の原則を覆して、デジタルマネーでの支払いを可能にすれば、事務コストを抑えるという目論見が出てくるのは当然なのかもしれません。

会社サイドにとっては切実なオペレーションコスト問題なのです。

つづく

2018年08月15日