[150] 生産性の具体的な計算例②(光学機器4社の場合)

先週に続いて生産性の具体的な計算例をみていきたいと思います。

牛丼3社に続いてご紹介するのは、光学機器メーカーです。

光学機器メーカーとは「ニコン」「キャノン」「コニカミノルタ」「富士フィルム」などの企業で、これらの4社の新聞記事は決算だけでなく、新製品の発売や終了など報道されることがたびたびあるところは、牛丼3社と共通するところです。

これら光学機器メーカーの規模は思いのほか巨大で、売上高は「兆円」単位です。キャノン4兆、コニカミノルタ1兆、富士フィルム2.5兆円です。ニコンの売上も7000億円ですから、ザックリ!乱暴に申し上げると、これらの光学機器メーカーは「兆円」企業と言えると思います。

そのような日本の名だたる「兆円」企業の生産性はさぞかし高いのだろう!と思いがちですが、実は牛丼3社のほうがはるかに生産性は高いのです。

「なんやて???」「なんで???」

※Yahooファイナンス(光学4社は、キャノン2017.12月期以外は2018.3月期決算。牛丼3社は2017年3月期 ただし吉野家は2月期)

生産性が倍以上違いますね… 売上の巨大な光学機器メーカーの方が、牛丼3社よりも生産性までもが大きいと思ってしまいそうですが、現実の数字は予想とは逆の結果になっています。

このように業種業態によって、生産性のランディングポイントが違っていることはよくあることです。

すこし解説をしますと、光学機器4社と牛丼3社の「売上原価」に着目してみてください。そして、「売上」に占める「売上原価」の比率をチェックしてください。いわゆる原価率というやつです。



原価率に関しては光学機器メーカーの方が総じて高い数字になっています。

この理由は商品の違いを考えればすぐにわかります。光学機器メーカーの商品とは、カメラとかコピー機とか医療機器などです。当然制作するのに部品代や金属加工費がそれなりにかかると思われますし、1台当たりの値段は牛丼よりも高いはずです。

例えば吉野家で「牛丼たまご味噌汁」(わたしの黄金セット!)を注文しても500円(牛丼380円 たまご60円 味噌汁60円)です。カメラや医療機器に比べるまでもなく、値段に違いがあります。

一方、光学機器メーカーの製品は工場で集中して大量生産できますが、牛丼は全国のお店でシクシクと分散して都度都度作る必要があります。

牛丼はカメラのように作り置きをしておくこともできません。たとえ真空パックの牛丼の具が工場から出荷され、牛丼店に配布される仕組みがあるとしても、牛丼店でどうしても温める必要があります。どんぶりによそう必要があります。カメラはお店で開封しなくても、いわばどこでも使用を始めることができます。もともと商品が消費される場所や時間、つまり性質に違いがあるということです。

このような商品の性質の違いが複合的に影響しあって、生産性のラインディングポイントが変化してきているのです。

このように考えていくと、業種業態の違いから生産性のレベルの高い低いは、業態の性質を示す指標としての意味はありますが、生産性の数字が高いという理由だけで牛丼3社の方が光学機器4社よりも優れている!と決めつけることはできません。

生産性は他業種で比較するよりも、競合他社と自社の生産性を比較する、自社の先期と今期を比較するなど、近しいところで生産性の変化をチェックすることに大きな意義があるということがおわかりいただけると思います。

この生産性の数字は目標とする水準を超えれば助成金を支給する!という「目標達成助成」の指標として労働局などで積極的に活用されています。助成金支給の要件に注目することは大切ですが、それとともにどうすれば生産性の数字について財務的な理解を深めること、経営者にとっても、社労士にとっても重要なポイントであると思います。

2018年07月10日|ブログのカテゴリー:生産性向上