[121] トヨタ労使 本音で激論 異例の交渉 内幕公開(中日新聞)

麻雀にオープンリーチという手があります。
自分の手の内をさらして「さあ!こいや!」とプレッシャーをかけるちょっとすご味のある手です。

トヨタ自動車が3月7日に実施された労使協議会(春闘の労使交渉の場ですね)を動画でメディアに公開したというのは、この麻雀のオープンリーチのような破壊力があるように感じます。

ええっー!

新聞記事を読んだときに、わたしは心の中でそう叫びました。

私の考えとして、麻雀の手の内のように交渉というのはクローズドになっているからこそ、駆けも引きもできるのであって、公開討論のようになってしまっては、言った言わないの言質とり合戦になってしまって、収拾がつかなくなると思っていたからです。

でも…ふたを開けてみると、トヨタ自動車は労組が要求するレベルを超えた回答だった…

それと引き換え?にしたものは、前回解説した「ベア非公開」と、そして麻雀のオープンリーチのような「交渉のメディア公開」だったとするならば、その取引の巧みさと価値の高さにしびれざるを得ません。。

わたしは映像は見ておらず、新聞記事からその様子を知るのみですが、豊田章男社長の半端なきすご味が伝わってきて、記事を何度も読み返しました。

とっ!ても! 興味深かったですね。

組合側はこの日、高級車レクサスの新型エンジン開発への努力や、新型カムリ生産で生じた不具合に対応する新工法を開発した成果などをアピールした。」H30.3.16金 中日

”成績よかったよ!ほめて!”というよくやる交渉アプローチです。

だが、豊田社長は「百年に一度の(大改革への)危機感を本当に持っているならば、過去の成果に目を向けている暇はない」と一蹴した。」同記事

ん?

この社長のコメントの対偶は「過去の成果に目を向けている暇があるならば、百年に一度の(大改革への)危機感を本当に持ってはいない」!となります。

胸の底にズシリときますね。

命題が真ならば、対偶も真であるというのは、高1で習う数学で証明済みですので、最初のコメントと対偶は同じことを言っているといってもよいと思います。

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労組幹部は「これまでなら、現場の最後の訴えで要求を押し込めたが、想定外だった」と振り返る。」同記事


賃上げは要求以上に勝ち取っているのに どうしてでしょうか… この勝利に酔えない気分は…


「皆さんの『(これだけの成果を)やった、やった』という声を聞くたびに、『私と一緒に皆は戦ってくれていないのか』と、寂しい気持ちになった」… 豊田章男社長が、組合員に対し、心境を率直に吐露する姿が映し出された。」同記事


「成績が上がったから、お小遣いをアップして!」ではなくて「成績が上がったから、東大にチャレンジしたい!塾代とおやつ代出して!」という交渉でないとダメ!ということでしょうね。

「オレは世界の海賊王と呼ばれたオトコだ!」と過去の実績をアピールしてもSo What?(それで?)ですが、「オレは世界の海賊王になる!」は将来のビジョンを語っているわけですから Sure! Why not!(がんばろうぜ!)となるわけです。

この違いはとても大きいです。
過去にしがみつく視点と、将来を想像(創造)する視点の間は、とても大きく隔たっています。

これをメディアに公開した意義は小さくないと思います。
そして世の中の働き方に一石を投じるメッセージだとわたしは感じました。

オープンリーチの凄味でしょうか…

それとも、このシナリオを描いた仕掛け人の巧みさでしょうか…

いずれにしても成果は、技あり以上だと思います。

2018年03月27日