[107] トヨタ、裁量労働 実質拡大(日経新聞)…… ③

法律では雇った人の働いた時間を把握しなければならない!

ただし三つの例外があり、その時には働いた時間を「みなし」とすることができる!

先般、このようなことを申し上げました。

三つの例外とは、

① 働いた時間を把握することが困難なとき

② 働く時間を指示できないとき

③ 働く時間を指示しないとき

そして、それぞれの制度の名称は次の通りです。

① 事業場外みなし労働時間制

② 専門業務型裁量労働制

③ 企画業務型裁量労働制

ちなみに①②③の制度をまとめて「みなし労働時間制」と呼ぶのでしたよね!

ここまでは前回のおさらいです。

日経のH29.8.2水の記事にはこう記されています。

一般的に残業代を追加支給しない裁量労働制とは違い、新制度は会社が勤務実績を把握し月45時間を超えた分も支払う。

ここ!注意深く読んでくださいね!

勤務実績把握」!

「みなし」の三つの例外の必要条件はなんでしたっけ?


① 働いた時間を把握することが困難なとき

② 働く時間を指示できないとき

③ 働く時間を指示しないとき


「この3つとも!勤務実績を把握しないのだ!だからトヨタの新制度はみなしではないのだ!」

…といいたいところですが…それはおさえるポイント間違いです。

①の場外はそもそも勤務実績を把握しずらいので「みなし」にするということで、たしかに勤務実績は把握しない制度です。したがってトヨタの新制度は①場外ではないと言えます。

しかし!②専門 ③企画 は「指示」について放任されているだけで、実は勤務実績は把握しなければならない制度なのです!

すこし難しいですね…

でも、もう少し頑張りましょう!

「みなし」制度の特徴的なポイントは「時間に応じた賃金を支払わない」つまり働いた時間が長くても短くても一定のお給料だ!というところなのです!

もうおわかりですよね!

月45時間を超えた分も支払う

記事にはこのように時間に応じたお給料を支払う制度だと、はっきり書いてあります!

したがってトヨタの新制度は、②専門でも③企画でもありません!
むろん①場外でもありません!

ゆえに…

トヨタの「新制度」は、① 事業場外みなし労働時間制でも… ② 専門業務型裁量労働制でも… ③ 企画業務型裁量労働制でも… ありません!!

つまりトヨタの新制度は、例外的な法律を利用したものではないということになります。

ということは… トヨタが法律無視???

いえいえそういうことではありません。

例外を使わずに、原則的な法律の範囲内で運用を変更しようという巧みな仕組みです。

新聞記事も負けずに巧みですね。

法律に定められた例外は「裁量労働」として、トヨタの新制度は「裁量労働」と意識的に書き分けています。

「制」のあるなしです!

トヨタ自動車は自由な働き方を認める裁量労働の対象を広げる方針を決めた。」H29.8.2水 日経

これは「制」と書いてありませんので、トヨタの新制度のことですね。

法律が定める裁量労働の業務よりも幅広い事務職や技術職の係長クラスを対象とする新制度案を労働組合に提示。」H29.8.2水 日経

トヨタは既に裁量労働を導入しているが、主任級では約1700人にとどまっていた。」同記事

住友電気工業は4月に研究開発部門で裁量労働を導入した。」同記事

法律で定められた制度を語るときには「制」をつけています!

この記事のニュースバリューは、トヨタが裁量労働制の枠組みを拡大したということではなくて、現行法の枠組みの中でトヨタが運用を工夫して、働き方改革に取り組み、組合もそれを認めた!というところがポイントなのです。

法改正はしなくとも!働き方改革はできる!というところが、技ありなのです!

一方、法律に沿った裁量労働制は適用の条件が厳しく、運用を誤ると行政指導の対象になります。

このような厳しい条件が、導入企業率=3.5%、対象労働者率=1.8%にとどまっている理由のひとつなのかもしれません。

しかし原則的なルールを覆す例外ですから、あまり甘いと原則の趣旨が没却(ホネヌキ)にされることになりますので、とてもむずかしいところです。

次回は、裁量労働制に対して行政指導があった記事をご紹介したいと思います。

2018年02月06日